自治体DX推進計画とは――その概要、手順書などについて解説

新型コロナウイルスの感染拡大を契機にデジタル化を推し進める流れが加速しています。新型コロナ対応の取り組みであれば原則的に自治体が自由に使える地方創生臨時交付金を活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連事業を展開する動きも見られます。

政府はポストコロナの新しい社会をつくる取り組みの一環として「行政のデジタル化」を掲げており、2020年12月に「自治体DX推進計画」を策定しました。自治体DX推進計画とは、どのような取り組みなのでしょうか。

「自治体DX推進計画」とは

政府は2020年12月にデジタル・ガバメント実行計画の改定を閣議決定し、国と地方の情報システムの共通基盤となる「Gov-Cloud(ガバメントクラウド)」の整備を進めています。ガバメントクラウドは原則として全ての自治体が利用することを想定しており、2025年度までに整備を終えることを目標としています。

デジタル・ガバメント実行計画と併せて、政府は「自治体DX推進計画」を策定しました。推進計画の対象期間は2021年1月から2026年3月までで、6つの重点取り組みを定めています。

モバイルアイコンを指す男性の手

自治体の情報システムの標準化・共通化

自治体には住民基本台帳や介護保険、児童手当などシステム標準化の対象となる17の基幹業務があります。それぞれの業務で使用するシステムの仕様は自治体ごとに異なっており、データ連携ができないなど業務の効率化が進まない一因と考えられています。

国がシステムの標準仕様を策定し、各基幹業務のシステムが標準仕様に準拠したものとなるよう、推進計画ではシステムの標準化・共通化を重点取り組みと位置付けています。

マイナンバーカードの普及促進

マイナンバーカードが普及することで、各種給付の迅速化や行政手続きのオンライン化が進むと期待されています。

国は2022年度末までにほとんどの住民がマイナンバーカードを保有することを目指しており、カードの交付にかかる事務費の負担増に対する補助金などを用意しています。マイナンバーカードの普及促進も重点取り組みの1つです。

行政手続きのオンライン化

子育てや介護に関する31の手続きについては、2022年度末を目指して、住民がマイナンバーカードを使ってマイナポータルから手続きできるようにすることが掲げられています。こうした取り組みの実現には、自治体の基幹システムとマイナポータルを接続する必要があり、行政手続きのオンライン化も欠かせません。

AI・RPAの利用推進

推進計画では、AIやRPA(Robotic Process Automation)の利用推進も重点取り組みとしています。AIやRPAの導入に関しては総務省がガイドブックを作成しているほか、標準モデルの構築に取り組む自治体を支援する事業も行っており、参考にできます。

テレワークの推進

テレワークの推進も重点取り組みの1つです。総務省は自治体職員のテレワークを後押しすべく、情報セキュリティポリシーに関するガイドラインを改定するなど、支援策を提供しています。

セキュリティ対策の徹底

情報セキュリティポリシーに関するガイドラインの改定を踏まえ、セキュリティ対策を徹底することも重要な取り組みの1つです。総務省はよりセキュリティ水準の高い次期自治体情報セキュリティクラウドに移行することを支援しており、セキュリティ対策の徹底を呼びかけています。

自治体DX推進計画をどうやって実現していけばいいのか

総務省は自治体DX推進計画を進めるにあたり、各自治体が具体的にどうやってDXを実現していけばよいかを示す「自治体DX推進手順書」を作成しました。

データが表示されたタブレットと書類

自治体DX全体手順書【第1.0版】

手順書の構成は大きく4つのテーマに分かれており、まずはDXを推進するにあたって想定される一連の手順を説明した「自治体DX全体手順書【第1.0版】」について解説します。

全体手順書は、DX推進の手順には4つのステップがあると示しています。

■ステップ0:「DXの認識共有・機運醸成」

首長から一般職員までがDXについて基礎的なことを理解し、実践意識を持つようにする段階です。そのためには、首長や幹部職員らがリーダーシップを発揮し、強くコミットメントすることが重要とされています。

■ステップ1:「全体方針の決定」

DX推進のビジョンと工程表を示した「全体方針」を決定し、庁内で広く共有します。各自治体でデジタル化の進捗状況を確認し、DXについて取り組む内容や順序を大まかに工程表にすることが重要です。

■ステップ2:「推進体制の整備」

DXの司令塔となるDX推進担当部門を設置し、庁内の各業務担当部門と緊密に連携できる体制を構築します。併せて、各部門の役割に見合ったデジタル人材を配置するとともに、外部人材の活用も検討します。

■ステップ3:「DXの取り組みの実行」

関連ガイドラインの内容を踏まえつつ、個別の取り組みを計画的に実行していきます。「PDCA」サイクルによる進捗管理を行うとともに、「OODA」のフレームワークを活用した柔軟で速やかな意思決定を行います。OODAとは、Observe(観察、情報収集)、Orient(状況、方向性判断)、Decide(意思決定)、Act(行動、実行)の頭文字をつなげた言葉です。

自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書【第1.0版】

4つのテーマのうちの2つ目は、「自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書【第1.0版】」です。自治体情報システムの標準化・共通化は全国統一的な取り組みとなり、具体的な作業手順を紹介しています。

標準化対象のシステムについては、まずは関係府省が標準仕様書を作成し、各ベンダーが標準に準拠したシステムをガバメントクラウドに構築します。総務省は各自治体がガバメントクラウドに構築されたシステムを利用することを想定しており、綿密な移行計画の作成が必要と強調しています。

移行計画の作成からベンダーの選定、データ移行などに至る作業を順次行い、2025年度までのシステム標準化が目標とされています。

自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書【第1.0版】

3つ目は、「自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書【第1.0版】」です。

自治体DX推進計画は、2022年度末までにほとんどの住民がマイナンバーカードを保有していることを前提に、子育てや介護に関する31の手続きをマイナポータルからできるようにする目標を掲げています。

これを実現するためには、自治体の基幹システムとマイナポータルを接続する必要があり、オンライン化に係る手順書は標準的なシステム構成の例を紹介しています。

参考事例集【第1.0版】

最後は「参考事例集【第1.0版】」で、DXで先行している自治体の事例を集め、簡潔にまとめています。組織体制から職員の育成、人材の確保など、幅広い分野の先行事例を紹介しています。

自治体DXの基盤となる「Gov-Cloud」とは

「Gov-Cloud(ガバメントクラウド)」は、政府が2025年度までの整備を目指している国と地方の情報システムの共通基盤です。政府が複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)を提供することで、自治体は自前のサーバやOSなどを保有する必要がなくなり、基幹業務などをオンラインで行えるようになります。

ガバメントクラウドを有効活用するためには、自治体情報システムの標準化・共通化といった自治体による取り組みが必要で、自治体DX推進計画はガバメントクラウドの有効活用と密接に関係しています。