地方創生とは?地方創生の目的や具体的な事例を解説

人口減少と超高齢化という日本が直面する課題に対応するため、政府が2014年ごろから掲げてきたのが「地方創生」です。地方創生とは何か、その概要や目的、具体的な取り組み事例などについて解説します。

「地方創生」の概要と目標を簡単に解説

まず、地方創生とは何なのか、概要と目標を分かりやすく説明します。

地方創生とは何か

地方創生とは、2014年に時の政権を担っていた安倍晋三内閣が、地域活性化を目的に打ち出した政策です。

地方の人口減少問題はそれ以前から指摘されていましたが、安倍内閣が地方創生を掲げる呼び水になったのは、民間研究機関が発表したある提言だと考えられています。

民間研究機関「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務大臣)は2014年5月、「ストップ少子化・地方元気戦略」と題した提言を発表しました。

提言は、2040年に若年女性人口(20~39歳)が5割以上減少する市町村が896(全体の49.8%)に上り、「将来消滅するおそれがある」と警鐘を鳴らしました。この提言は「増田レポート」とも呼ばれ、批判を含めて大きな反響がありました。

同年9月の内閣改造で地方創生担当大臣が新設され、地方創生の基本理念を掲げる「まち・ひと・しごと創生法」が2カ月後の11月に臨時国会で成立、施行されました。

まち・ひと・しごと創生法の第1条には「急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」と目的が明記されています。

国の地方創生の取り組みは現在、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局と内閣府地方創生推進事務局が両輪となって進めています。

地方創生の目的とは

地方創生は人口減少に歯止めをかけ、将来にわたって活力ある地域社会を実現するために、以下の3点を重要な目標と位置付けています。

東京への人口流出を防ぐ

1つ目は、東京圏への一極集中を是正するため、東京への人口流出を防ぐことです。

政府が閣議決定した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)および第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』」(概要)によると、2018年における東京圏への転入超過は13.6万人で、バブル崩壊後のピークだった2007年(15.5万人)を下回りました。

ピーク時より水準は下がっているものの、東京圏への転入と転出を均衡させる目標は達成できておらず、さらなる取り組みが必要と指摘されています。

地域社会の担い手が減少すれば、地域経済が縮小し、さらに人口減少を加速させるという負の連鎖に陥ります。働きやすい魅力的な就業環境の創出など、地方創生は若者が地域に定着する取り組みを重視しています。

地方財政の回復と安定化

地方創生の目的の2つ目は地方財政の回復と安定化です。

2021年版地方財政白書によると、地方自治体の借金に相当する地方債などを含めた地方財政の借入金残高は、2019年度末で約192兆円でした。地方財政白書は「依然として高い水準にある」と指摘しており、地方財政の健全化は地方自治体が抱える共通の課題です。

2007年には、北海道夕張市が国の管理下で財政再建を図る「財政再生団体」に転落し、財政破綻したことが話題となりました。財政破綻が危惧される地方自治体は他にもあり、国は地方創生において財政支援を重要な政策と位置付けています。

地方企業の活性化

東京への人口流出を防ぎ、さらには大都市圏から人を呼び込むためには雇用の創出が欠かせません。地方での起業を後押しする取り組みやベンチャー企業の育成などを含め、地方企業を活性化することも地方創生の目的の1つです。

地方創生の重要性

地方創生はなぜ必要なのでしょうか。

地方からの人口流出が続けば、人口減少に歯止めをかけられません。人口減少は産業活動の縮小をもたらし、ひいては地域経済を衰退させます。各種産業の縮小によって雇用の受け皿が小さくなれば、人口流出に拍車がかかる事態も想定されます。

人口減少はまた、地方財政にも影響します。人口減で税収が減り、財政状況が悪化すれば地方公共団体は歳出削減を余儀なくされます。歳出削減は従来提供していた行政サービスの廃止や有料化につながりかねず、地域住民が行政サービス水準の低下に直面するおそれがあります。

地方創生に関する支援・交付金

地方に走る高速道路

政府は地方創生に取り組む自治体を後押しするため、各種支援制度や交付金を準備しています。それぞれの概要について、簡単に説明します。

地方創生に対する政府の支援

政府は自治体による地方創生の取り組みに対して、情報・人材・財政の分野で支援を行っています。

情報分野の支援としては、地域経済分析システム(RESAS:リーサス)の提供があります。リーサスは、産業構造や人口動態など官民が有するビッグデータを集約し可視化するシステムで、政策立案や検証などの場面で活用できます。

人材支援については、地方創生人材支援制度を用意しているほか、地方創生カレッジ事業を実施しています。

地方創生人材支援制度は、意欲と能力のある国家公務員や大学の研究者、民間の専門人材を市町村長の補佐役として派遣する制度です。地方創生カレッジ事業では、地方創生に関する実践的な知識やスキルを身に付けられるよう、eラーニング講座や実地研修を用意しています。

地方創生に関する交付金

地方創生を目指す自治体を財政的に支援するため、政府は各種交付金制度を整備しています。

地方創生推進交付金

地方創生推進交付金は、自治体が策定した地方版総合戦略に基づき実施する先駆的な取り組みに交付されます。対象事業の分野としては、しごと創生、地方への人の流れ、働き方改革等、まちづくりなどがあります。

新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金

新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金は、新型コロナの影響を受けた地域経済や住民生活を支援する目的で創設されました。コロナ対応の取り組みである限りは原則、自治体が自由に使える点が特徴です。

地方創生の具体的な取り組み事例

あらゆる取り組みにチャレンジする

最後に、地方創生のために自治体が行っている取り組みの事例を紹介します。

【北海道小樽市】パ酒ポート

北海道小樽市は、道内の日本酒蔵やワイナリー、ウイスキー醸造所などと連携し、北海道産酒のPRに取り組んでいます。

酒造メーカーとJTB北海道が設立した「北海道広域道産酒協議会」がガイドブックを兼ねたスタンプラリー帳「パ酒ポート」を販売し、購入者が酒造所を巡れば特典が用意されています。

【茨城県取手市】起業家タウン☆取手

茨城県取手市は、「起業家タウン☆取手」と題して市内での起業を後押しする取り組みを実施しています。

日本初の起業家登録制度である「起業家カード」を発行し、カード所有者にはレンタルオフィスの利用割引を適用するなど、起業家を支援しています。

【三重県名張市】生涯現役による躍進のまちづくりプロジェクト

三重県名張市は、「雇用創出」に狙いを定めた取り組み「生涯現役による躍進のまちづくりプロジェクト」を展開していました。

名張市長を代表者とした「名張市雇用創造協議会」を設置し、経営革新のノウハウを学べるセミナーを開催するなど、雇用創出を図りました。

【島根県海士町】島まるごと学校

島根県の離島で、隠岐郡を構成する海士町、西ノ島町、知夫村では、島の魅力を生かして島外からの人の流れを創出する取り組み「島まるごと学校」を実施しています。

海士町にある県立隠岐島前高校へは全国から高校生が「島留学」し、島でしかできない経験を積んでいます。親子そろって1、2年間島で生活する「親子島留学」などもあります。