コロナ禍で注目、U・Iターン推進の事例を紹介――オンライン活用が鍵

人口減少・少子高齢化が進む中で、地域の活性化を図るために、都市部から人を呼び込むUターン・Iターンを推進することは、地方自治体にとって重要な課題になっているといえます。

特に、今日のように新型コロナウイルスの感染拡大で地域をまたいだ移動や対面での交流が難しくなる中では、より工夫を凝らした対策が必要不可欠といえるでしょう。

しかし全国には、さまざまな施策により移住推進に成功している自治体がいくつもあるのです。都市部に拠点を構えて地域の魅力を積極的にアピールするところや、独自の観光資源を生かして移住希望者の関心を集めるところもあります。

本記事では、移住推進に成功している事例について、具体的な施策の内容とともにご紹介します。

青森県弘前市 東京事務所を活用した移住推進

青森県弘前市は、2016年10月に東京・有楽町に開設した「ひろさき移住サポートセンター東京事務所」(以下、東京事務所)を移住推進の拠点と位置づけています。

東京事務所は2021年2月現在、市の正職員3人、会計年度任用職員1人の計4人体制で運営中。首都圏で移住に興味を持っている人の相談に応じたり、セミナーを開催したりしています。また、情報発信には移住ポータルサイトの「弘前ぐらし」やFacebook、Instagramなどを活用し、イベントの告知や各種支援制度の紹介を行っています。

周辺の7市町村とも連携して「弘前圏域定住自立圏」を作り、移住セミナーや若者向けの交流会を合同で開催するなど、地域全体で魅力の発信に取り組んでいるのも特徴です。

東京事務所を構えるメリットは、相談に訪れる人に、早めに移住の魅力を伝えられることです。弘前市は市役所内にも窓口を設け、移住に関する相談に応じていますが、市役所と東京事務所では、相談に訪れる人の移住に向けた準備の進み具合に違いがあるといいます。

東京事務所の場合、相談に訪れる人は、まだ移住先を決めておらず、検討を始めた段階であることが多い傾向です。そのため、早めのタイミングで弘前市の魅力をアピールできるのです。また、電話やメールだけでなく、対面でのやりとりが相談者に安心感を与え、細かいニーズの把握につながっています。

東京近郊で移住イベントがあった際に、東京事務所として参加しやすいのも利点の1つです。イベントを通じ弘前市に興味を持った人が後に東京事務所を訪れるなど、集客にも役立っているのです。

さらに、弘前市は担当職員向けにオンライン対応研修を実施し、コロナ禍を乗り切ろうとしています。新型コロナウイルスの感染拡大により、対面での相談は難しくなっていますが、圏域合同移住セミナーはオンラインでの開催にこぎ着け、発信力の強化に力を入れています。

新型コロナの感染拡大以降、移住者数こそ横ばいを維持しているものの、サイトへのアクセス数は約2倍に。担当者は、弘前市への移住を本格的に考える人の割合が増えつつある感触をつかんでいます。

長崎県五島市 地域の魅力と先進的取り組みで移住者増

長崎県五島市には、2016~2020年の5年間で784人が移住しました。全国各地の自治体が人口減少・少子高齢化に歯止めをかけようと競う中で、五島市のケースはUターン・Iターン促進の成功例といえます。

五島市は、市として以下のような取り組みをしています。

  • 積極的なプレスリリースとメディア対応
  • 創業を支援する補助金制度の活用
  • ワーケーション推進活動

五島市は恵まれた観光資源を最大限生かし、移住に関心を持つ人々に効果的に魅力をPRしてきました。この中でも注力したのが、メディア対応とプレスリリースの配信です。

市はプレスリリースとメディア対応を、知ってもらうための「種まき」と位置づけ、「できるだけ取材は受けるようにする」「プレスリリース配信サービスを利用する」といった前向きな姿勢で、積極的に情報発信をしています。

2018年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されました。このとき、五島市の「久賀島の集落」と「奈留島の江上集落」も構成資産として登録され、メディアに登場する機会が増えたのです。

これを機に同市へ移り住む人の数が増え、メディアは五島市への移住者が増加していることを取り上げました。このメディア露出の増加がさらなる移住者の呼び込みにつながる好循環が生まれ、年間200人ほどの移住者数を維持しています。

また、五島市にとって追い風だったのが、いわゆる「有人国境離島法」です。

2017年4月にこの法が施行され、五島市が「特定有人国境離島地域」となったことで、住民が島を行き来する船の運賃が安くなりました。運賃は、最大で従来のおよそ半額になっている路線もあり、住民にとって大きな利点になったといえます。

また、創業を支援する補助金交付制度も整いました。国の政策が移住を促進した側面もあったといえます。

さらに、移住関心層を五島市にひきつけたのが、新型コロナウイルスの感染拡大前から取り組んでいた「ワーケーション」です。

五島市は、観光地などで仕事をしながら休暇を取るワーケーションに早くから着目。2019年5月に、1回目の実証実験を実施しました。約50人が参加し、終了後に市内で創業する参加者もいたほどです。

翌2020年1~2月には、2回目の実証実験を実施。1回目で浮かび上がった課題の改善に取り組みました。

1回目のときは交通手段としてレンタカーを用意したものの、都市部から来た参加者の中には運転できない人も多く、一部に集中してしまうという事態が起こりました。この対策として、第2回はタクシーチケットを準備して対応したのです。

また、1回目で好評を博した、参加者と地域住民の交流企画を継続して行いました。都市部の高度人材がスキルを地元住民に紹介するワークショップを開催しています。良かった点と改善すべき点をよく検討し、前向きな姿勢で運営に努めているのがポイントです。

現在のコロナ禍で、3回目の実証実験は中止に。しかし、LINEを利用した移住情報の提供を試みるなど、常に時代に合わせた取り組みを行っています。

島根県、8市町をオンラインでめぐるツアー型移住交流イベントを開始

島根県は、コロナ禍でも地域の暮らしを体験できるオンライン型の無料イベント「しまね移住体感オンラインツアー」を2021年8月から始めました。

このイベントは、公益財団法人 ふるさと島根定住財団と協力して実施します。県内8市町(雲南市、益田市、大田市、出雲市、川本町、浜田市、奥出雲町、松江市)と連携し、2022年3月まで計8回にわたって開催。

当日は、各市町が、地域の特色をZoom配信で伝えます。臨場感を出すために現地からライブ中継し、実際の移住者との座談会などを開いて一方的な情報発信にならない工夫をしているのがポイントです。オンラインのため現地まで足を運ぶ手間が省け、参加費がかからないことも参加者にとってはメリットとなっています。

2021年8月21日に実施した雲南市編では、移住者へのインタビューに加え、最新の空き家情報や空き家改修事例を紹介するなど、プログラムの充実に力を入れました。終了後は各ツアーのアーカイブ動画も配信するため、視聴者は各地域の特色を見比べたり、後日ツアーの様子を再視聴したりできます。

また、島根県は、Uターン・Iターン転職を積極的に支援しています。

中でもIT人材の確保に重点を置いており、転職支援サービスサイト「IT WORKS @島根」を開設。求人情報の掲載や各種イベントを実施して、高度人材の呼び込みを図っています。

2020年からは「島根に移住したITエンジニアと話す会」「GO島根!ITエンジニア転職フェア」といったオンラインイベントも継続開催中。実際にUターン・Iターン転職をしたITエンジニアの生の声や、県内のIT企業の魅力を伝えています。

まとめ

新型コロナウイルスの影響で、地方から東京圏に人口が流入する一極集中に変化の兆しが見え始めています。

総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、2021年7月に東京都へ転入した人は2万6958人だったのに対し、転出者は2万9922人で、2964人の転出超過でした。東京都で転出が転入を上回ったのは3カ月連続で、「人口が密集する東京から人が離れる動き」との見方もあります。

コロナ禍でテレワークが普及し、首都圏から地方への移住を希望する人が増えているのかもしれません。人口減少・少子高齢化に直面している地方自治体にとっては、移住関心層に働きかけてUターン・Iターンを促進するチャンスです。

地域をまたいだ移動や対面での交流など、コロナ禍に突入する前と比べて難しくなった点があるのも事実です。

しかし、オンライン型のツアーやセミナーなどを積極的に開催し、効果的にコミュニケーションをとって移住者増に成功した自治体もあります。コロナ禍というピンチをチャンスにどう変えられるかが、自治体に問われているといえるでしょう。