近年、DXの必要性がますます強く言われるようになりました。しかし、「何をどこから手を付けていいのか分からない!」という方も多いはず。本稿ではどのような考えでどのように始めたらよいのか、DXの進め方についてじっくり解説します。
DXで何を解決するのか?
DXによってさまざまな事業上の課題が解決できるといわれています。しかし重要なのは自社が解決すべき課題は何なのか、ということ。まずはどのような課題が解決できるのかを確認するところから始めましょう。
業務プロセスの改善
紙や帳票を使っていた業務をデジタル化することで、業務の効率化や精度向上が期待できます。一例を挙げると、経理処理を紙で申請するのではなく経理システムに直接入力すれば、帳票を作成する手間が省け、なおかつシステム上でチェックされるので申請時のミスを防ぐことができます。
人材不足の解決
さまざまなシステムを導入することで、以前より少人数で業務を遂行できるようになります。最も分かりやすい例が、コンビニなどが出店を進めようとしている無人店舗でしょう。
市場競争力の強化
業務を効率化し少人数で業務を回すことができれば人件費などを抑制でき、コスト競争力が増します。また顧客情報や商品の販売状況などがデジタル化されていれば、売れ筋商品や季節変動の分析、新製品のテストなどが容易になり、競争力のある商品を素早く世に出すことができます。
BCP対策の強化
DXを推進し、さまざまな情報を高いセキュリティ性能を持ったクラウド上に保管しておくことで、災害などで自社施設が被害を受けた場合でも重要な情報を失うことなく事業を復旧し、継続することができます。また、クラウド上のデータにはさまざまな場所からアクセスできるので、交通機関が寸断された場合でも事業の継続が可能です。
新規ビジネスの創出
DXによって今までにない新たなビジネスを生み出すこともできます。実際にデジタル化とAIやIoTなどの最先端技術を組み合わせることで、タクシー配車やフードデリバリーシステム、顔認証によるセキュリティシステム、またFinTechなどさまざまな新規ビジネスが生まれています。
新型コロナ対策
DXが進みクラウド上に業務環境が構築されれば、テレワークなどを無理なく推進することができます。非対面・非接触で業務を実行できるので、新型コロナなどの感染症予防にもつながります。
スモールスタートでできることから始めよう
DXを進めるコツはスモールスタートで着実に始めることです。DXに取り組み始めようとしている段階では、仮にやるべきことが分かっていても、ITのインフラが追い付いていなかったり、投資判断が難しかったりするケースがあるでしょう。また、業務のやり方が変わる場合があるので、従業員からの抵抗も少なからず発生します。そのようなさまざまな障壁を少しずつ和らげるように、最初はスモールスタートで始めます。そして小さな成果を積み上げながら、徐々に適用範囲/規模を広げていくのが正しいやり方です。
徐々に規模を広げることでITインフラが少しずつ整備されていき、投資判断も段階的に実施するので先行きが見通しやすくなります。また、小さな成果を積み上げることで、自ずと従業員の拒否反応も終息していきます。具体的には次のようなステップで進めていくのがよいでしょう。
まずデジタル化で業務改善
まずはさまざまなデジタル技術を活用して、日々の業務を改善してみましょう。例えば経理処理の電子化や契約書の電子管理、人事・採用ツールの活用、スケジュール調整ツールやチャットツールの導入など、業務負荷の大きそうなところを狙ってデジタル化による業務改善を行います。従業員にヒアリングしてデジタル化する対象業務を決めることも、当事者意識を持ってもらうためには効果的です。
ここで小さな成果を上げることでDXの可能性を意識してもらうことが、次のステップへの後押しになります。クラウドサービスは初期費用が安価な場合が多いので、それらを活用することで初期投資を最小限に抑えながらDXの効果検証を早い段階から行うことができます。
理想的なシステムの検討と導入
次はいよいよ自社のDXにとって理想的なシステムはどのようなものなのか検討し、導入を進めていくステップになります。小売業を例にとって考えてみましょう。
元々は実店舗のみで販売していたところ、部分的なデジタル化によってネット販売(EC)を始めたとします。ここまで成功したのなら、次に考えたいのが実店舗とECを連携して顧客をさらに活性化して今以上に売り上げを伸ばすことです。
そこで例えば、スマートフォンアプリを開発して実店舗の顧客に登録してもらい、新商品情報や割引クーポンなどを配信して来店を促進します。さらに同時にポイント制を導入してECと顧客IDを連携。ポイントを共通化すれば顧客を抱え込むことができます。ここで必要な最低限のシステムは、スマートフォンアプリとECとで共通の顧客IDを利用でき、かつポイント制度に対応した販売/顧客管理システムということになります。
このようなシステムを導入することで、デジタル領域(ECサイトやアプリ)とリアル領域(実店舗)を連携させた本格的なDXを進めていくことができます。
最初の一歩はここから! DX取り組み例
DXの進め方は各社各様になると思いますが、具体的にどのようなことから手を付ければよいのか、参考例を挙げてみます。
請求書の電子化
最初に取り組みやすい例としては、「請求書の電子化」が挙げられます。販売管理まではシステム化されていても、請求書は最終的に紙で顧客へ送付しているケースが多いのではないでしょうか。クラウド型の電子請求書サービスを導入し販売管理システムと連携すれば、顧客への送付まで一貫して電子化でき、EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)に対応しているなら、顧客と直接請求データのやり取りも可能です。
また、売り掛け管理の機能を備えているサービスも多いため、単なる請求処理の合理化だけではなく、事後の債権回収も効率化できます。月末・月初などに集中する処理なので効果が体感しやすい業務です。
人事労務業務の電子化
人事労務はあらゆる企業に必要な業務です。重要な業務ですが、煩雑かつ個人情報を取り扱うためにセキュリティにも気遣う必要があります。そのような背景もあり、近年人事労務関連を電子化するためのクラウド型サービスが増えています。
同サービスを活用することで、人事関連の申請や勤怠・給与管理などをペーパーレスで効率良く実施でき、紙の書類の保管も必要なくなります。また、各種保険関連の手続きを電子申請できるサービスを選択すれば、さらに合理化が進みます。将来的に人材管理(HR)や採用関連のサービスも連携することで、人事労務業務全般のDXが可能になります。
BI、分析ツールの導入
自社の販売や生産状況の傾向を把握するために、それらのデータ分析を行っていることも多いと思います。多くの場合エクセルなどの表計算ソフトを使って手作業で集計しているかもしれません。自動化していたとしても自動実行マクロを自分たちで記述しなければならず、そのための工数もばかになりません。定期的に分析作業が発生するのであればBI(Business Intelligence)ツールなどを導入し、データ分析業務のDXを進めましょう。
分析作業を自動化することで、これまで行ってきた集計作業が不要になり、分析担当者は本来の「分析」に集中できるようになります。これにより、より深掘りした分析ができるようになるでしょう。また、データ更新を自動化すれば、よりタイムリーに状況把握ができるようになります。さらに、BIツールのダッシュボード機能を使って概況を可視化し、社内ポータルサイトなので全社(または担当部門)共有することで、社内で共通の課題認識を持つことができるようになるのも大きな利点です。
DXを始める際には、まず何ができるかを十分に把握した上で、スモールスタートで第一歩を踏み出すことが重要です。そしてその後に段階的に効果検証と投資判断を行いながら規模を広げ、徐々に全社・全従業員を巻き込んでいくことで本来やるべきことを達成できるようになります。