自治体DXで地域活性化――進め方や推進体制について解説

地方自治体では職員の人手不足が大きな問題となっています。職員数が減少する中、災害時や地域課題の対応業務は年々増加しています。

コロナ禍を機にこの問題が顕在化し、近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した業務効率化を進める流れが広がってきています。

しかし、これから取り組む自治体の中には「DXの進め方はどうすればいいのか」「どんな推進体制が必要なのか」という声も少なくありません。

本記事では、DXの進め方・推進体制の整備と事例を紹介していきます。

自治体DXの進め方

自治体DXでは利用者目線に立って、新たな価値を創出していくためのリーダーシップや強いコミットメントが必要です。そのため推進のステップを理解する前に、意識改革をすることが前提となります。

ここでは、意識改革の2つのステップを紹介します。

ステップ1|関心を持ち、自ら学ぶ

自治体DXにおける理解不足を補うため、まずはDXに関心を持つことが必要です。

DX推進で実現できることの中には、

  • チャットボットを導入し、業務効率化を行う
  • 電子申請システムによるオンライン化
  • 自治体職員のテレワーク

などがあります。

ステップ2| 当事者意識を醸成する

DX推進においては、自治体全体で利用者中心の改革を行う必要があるため、首長のリーダーシップや利用者目線に立つ姿勢が求められます。

他の自治体では、

  • 市長自ら、庁内外へ向けてDXに対する意気込みを表明する
  • 民間企業、地域住民と意見交換を行う

などの事例があります。

自治体DX推進の体制構築とそのポイント

DX推進においては自治体システムの標準化、オンライン化といった新たな変革が求められているため、以下の推進体制の構築が必要です。

  • DX人材の確保・育成
  • 長期的な取り組みと計画
  • 自治体同士の連携
  • 全庁的・横断的な推進体制の構築

それぞれのポイントついて説明します。

DX人材の確保・育成   

自治体DXでは主に、情報セキュリティ、IT・デジタルに関するリテラシーの向上などが必要とされます。OJT(On the Job Training)やOFF-JT(Off the Job Traning)による研修を組み合わせて育成を行い、適切な人材配置を行うことが必要です。

また、配置が困難な場合は、外部人材の活用・民間事業者へ業務委託を検討していきます。

神戸市の事例では、DX推進に向けて継続的な外部人材の確保に加え、庁内公募制度により職員が希望する業務を行えるようDX人材育成コースを新設。研修や実務を通してスキルの向上を図っています。

履歴書を囲む6体のジオラマ人形

長期的な取り組みと計画

DX推進において総務省が定める重点取り組み事項は6項目あり、実現に向けた目標時期が設定されています。

①自治体情報システム標準化、共通化(2025年度末目標)

②マイナンバーカードの普及促進(2022年度末まで目標)

③行政手続きのオンライン化(2022年度末まで目標)

④AI、RPAの利用推進

⑤テレワークの推進

⑥セキュリティ対策の徹底

これらを計画的に推進していくことが求められます。

大量のグラフデータとノート

自治体同士の連携

重点取り組み事項の「自治体情報システム標準化、共通化」においては各地方自治体の共通する事務処理や情報システムを標準化することなどが求められるため、自治体同士の連携が不可欠となります。

全庁的・横断的な推進体制の構築

重点取り組み事項の「行政手続のオンライン化」は業務効率化、手続きの簡素化を目的としています。

このオンライン化では各自治体が導入・実装に伴い、既存業務プロセスの見直し(BPR:Business Process Re-engineering)が必要になり、庁内を超えた推進が求められます。

早期に体制を整え、導入スケジュールを策定することが重要です。

DX推進体制に必要な整備

DXをスムーズに推進するには、適切な人員配置や部門の創設が不可欠です。ここでは必要な部門とポストについて紹介していきます。

必要な部門の整備

DXの推進体制を構築するにあたり、新たに「DX推進担当部門」の設置が必要です。この部門には、デジタル技術やデータを活用し自治体を変革していく司令塔としての役割が期待されています。

主な業務内容は、企画立案や部局間の調整、全体方針や取り組みの進捗確認などです。

部門の設置の方法としては、

  • 従来の情報政策担当とは別に設置する
  • 情報政策担当と同じ部門内で担当を分ける

など、情報政策担当との連携・各専門性を両立させることが求められます。

必要なポストと役割

推進にあたり強いコミットメントや部局間調整・専門的知見を持ちマネジメントを行うため、必要なポストと役割を紹介していきます。

  • 首長

推進にあたって仕事の仕方、組織・人事の仕組み、組織文化・風土そのものの変革が必要とされるため、首長自らが率先して推進していくリーダーシップが求められます。また、変革への強いコミットメントを持って取り組むことが期待されます。

  • CIO

最高情報統括責任者(CIO:Chief Information Officer)は庁内マネジメントの中核的立場であり、全体を把握し部局間の調整を円滑に進めるスキルが必要になるため、副市長などであることが最適です。

  • CIO補佐官等

CIOの補佐として体制の強化を行う役割です。またCIOの専門的知見から補佐をする場合は、外部専門人材の配置を検討する必要があります。

県内77市町村で推進する長野県のDX戦略

ここでは長野県の事例をもとに、DXの進め方、またその推進体制について紹介していきます。

長野県は移住したい都道府県ランキングで、14年連続1位に選ばれた魅力的な地域である一方、2000年以降、県内人口・自治体の職員数減少の課題を抱えています。

これに対しSociety 5.0を見据え、長期的に計画された2つの戦略が「スマートハイランド推進プラグラム」と「信州ITバレー構想」です。

この2つの概要は、県内のデジタル技術を活用できていない、77市町村へ推進を強化するというものです。県から市町村までの各自治体で共通する業務や情報を把握し、ICT(Information and Communication Technology)システムの協同利用を推進することで、導入コストと業務工数の削減を行なっています。

長野県地図

スマートハイランド推進プログラムの具体的な取り組みは、

  • 行政業務のデジタル化
  • 外国人旅行者と地場企業のキャッシュレス対応
  • 災害時の情報共有システム導入

などです。

推進体制は、CDO(最高デジタル責任者)を議長とし、各部局や教育長、県警本部長、プロジェクトチームを軸に、「長野県先端技術活用推進協議会」を設置。県内の全市町村が参加し、DX推進に取り組んでいます。

石垣の上にそびえ立つ松本城

もう1つの戦略である、信州ITバレー構想の具体的な取り組みは、

  • ICTを活用した森林管理と林業経営の最適化(スマート林業)
  • AIなどの技術を活用した農業の省力化、生産性向上(スマート農業)
  • IoTを活用した在庫管理や数量確認システムによる業務効率化(スマート工業)

などです。

推進体制は「信州ITバレー推進協議会」を設け、長野県の大学や産業支援機関など、全52機関で構成されています。

一面に広がる畑と山

こうした取り組みを県・市町村の自治体が外部人材と連携し、推進していくことで、県民・地場企業・県外の三方にとって魅力的な地域にするビジョンを掲げています。

ぜひ、DX推進の際の参考にしてみてください。